稲刈りで、わらを束ねる

 「今日は田んぼに行くので、待っていてください」とメモを渡す。部屋でそのメモをにらみながら、待っていた。もちろん、ばあちゃんは「土曜日に畑をしたから、今日は、いや。ななくさに行く」モードだ。デイの車が迎えに来るのを、待っている。
 9時過ぎに「行くよ」と言うと、外へ出た。「車が来るのんか?」と訊くので「トラックで行くよ」と言うと、変な顔をする。当たり前だ。それは無視して、どんどん先に立って歩くと、ばあちゃんはついて来る。トラックの助手席に乗せて、私は内緒で荷台に乗る。元は国道だったが、今は国道が4車線になり、移転したので、家の前から田んぼまで、裏道で行ける。すいすいと行って、田んぼに到着した。うまいぐあいに、道沿いの休耕田で、野菜を作っている「小作人、年貢なし」夫妻が来ている。「ばあちゃん、ここで、草、引いて」と言って、その人たちに「ちょっとの間、預かってね」と頼んでおいて、田んぼに行った。
 今日の田んぼは一番奥だ。山のきわなので、日の出が遅い。しかも、曇りだ。でも、よいこともある。前夜が晴れで放射冷却があれば、露だらけで稲がぬれているが、昨夜は曇りで露がない。朝の9時半から稲が刈れるのだ。さっそく、四すみの機械の入り口を刈って、機械を入れる。まわり、4周ぶんを刈っていく。良い調子だ。稲も倒れていない。というのは、今年は穂肥え(ほごえ)をやっていない。肥料不足で、稲が倒れるほども、背丈も伸びていないわけだ。実がついているが、はたしは、おいしいかな?
 つぎに、コンバインの後ろを細工して、稲わらを落とす。それを拾って束ねるのだ。「わらが欲しい」と言う人たちが、集まってきた。「ばあちゃん、稲刈りやで」と言って田んぼに連れて行った。「これ、くくりまひょか?」と言う。よぅく、わかっている。やり始めは不器用だ。「小さい束でいいよ」と言うと、はかどるようになった。とちゅうで「入らへん」と言うので見ると、束をくくるほうのわらを3本、ねじりようが足らん。ゆるいので、通りにくいのだ。文字で説明ができないが、「もっとねじって、硬くしてごらん」とむきになって教えた。どんどん作ってくれた。「うちに持って帰って使うよ」と言うと、本気になるのだ。欲と道連れだ。昔とった杵柄だ。体が覚えている。
 11時過ぎに稲刈りは終わった。コンバインを移動し、運搬車で米の袋を運び、藁束も運んで、道沿いの小屋に全員集合になった。ばあちゃんもジュースを飲む。おやつも食べる。
 ばあちゃんは「どの車に乗りますのん?」と訊く。見れば、白い乗用車が3台もいる。「車を見ると、デイのお迎えだと思うのよ」と私が説明して、一同納得のようだった。「トラックに乗るよ」と言うのだが、またすぐに「どの車?」と訊くので「あかんわ。先に連れて帰るわ」となり、また来たときのように、今度は私と米の袋が荷台に乗って、家に帰った。もう12時15分前だったので、さっさとご飯にした。