猫なで声 

 ばあちゃんは雨で退屈らしい。午前中は寝てたかな?血相変えて台所に来たのは12時40分だった。「ちょっとお茶」と言う。昼ご飯を食べてないことには気づかない。洗顔とお経が終わると、長靴、麦藁帽子姿で出て行こうとする。引き止めて昼ご飯にする。すんだら、今日も迎えに来ると思うのね。「来ない」と書くと部屋に戻った。
 3時だ。ばあちゃんが動き出す。食べ物探しだろう。私が応接間でパソコンをしていると入ってきた。ガラス戸に来て外を見て言う。「ぎょうさん、車、来るなぁ」目の前は高速道路なのだから当たり前。無視していると「べっちょないか?心配やわぁ」?あ〜そうか。まだ「車が迎えに来る」と思っているのだ。ばあちゃんはあきらめたのか、出て行った。
 あとで夫に訊くと、ばあちゃんは夫の部屋に入り、ペタッと座って「お父ちゃん、ひさしぶりやな。せんど、見ぃひんな。ここにおらしてぇな。お父ちゃんと一緒におりたいねん」と言ったのだそうだ。「まいったわ」と夫が言う。「あっち、行け!」と言うと行ってしまったが、二回目に来た時には「入ったらいけまへんか?」と訊いて「あかん」と言うと行ってしまったそうだ。「猫なで声やで。どないなっとんねん?」