帰ってきた

 梅干をいじっていたら、ばあちゃんが帰ってきた。ぷんぷん怒っている。「また、明日ね」と言われるのに「そんなもん、わかるか!」とか言う。このばちあたり!と思う。そういうのが、なさけないよね。「何、怒ってるの!謝りなさい!」としかりとばす。「何もわからないから叱ってもだめ、まず、受け入れる」と介護の本には書いてあるでしょ。「叱ったらあかん、意地悪ばあさんになる」と言われたよ。でも、もともと意地悪ばあさんなんだよ。
 着替えがすんだばあちゃんが「どないするのんや!」と怒鳴っていたら、ケアマネ君が来た。中に入り「部屋で休んでください」と言ったものだから、ばあちゃんは部屋に引っ込んだ。お茶を飲んで、来月の予約をしていたら、ばあちゃんが来た。お茶を渡すと、飲んでしまってから、敷いていたコースターをいじっている。丸い木の枠にコルクがはってある。「これ、取れへんで」と言う。しつこく言うから、なんで?と思っていたら、ケアマネ君が「食べ物と思っているんでしょう」と言う。あ、そうか。お皿にビスケットが乗っていると思ったのか。それは読めなかった。
 次に「これからどないしたら、よろしい?」と訊く。「ここにいてください」とケアマネ君が言う。「ここで泊めてもらえますのんか?」と訊く。「はい」と言うと「食事は出ますのんか?」と言う。あきれるぐらい、しつこい。「怒られます」と言う。あたりまえや。しつこく訊いたら怒られるし、怒られるようなことをするから怒られる。他人がいると甘えるのだ。訴えたらきいてくれると思うから、しつこく言う。
 もう連れ出すことにした。従姉妹の土手かぼちゃを見に行く。ばあちゃんはかぼちゃには興味がないが、しかたなくついてくる。見終わってケアマネ君は帰っていった。
 梅を壷に戻す。ばあちゃんは退屈して畑に行ってしまった。あとで行くと、草を引いていた。6時に連れて帰る。顔を洗い、お経をあげているから、犬をつなぎに行ったりして、帰ると、ばあちゃんがいない!あれ?部屋も見た。靴もある。
 実はお経が終わり、台所に来て、ご飯をよそっていたのだ。ちゃんと自分のお茶碗とお箸を持っている。お茶碗は最近、買い換えた物で、ピンク地に白い桜の花が一面に飛んでいる。中が薄い色がついているので、ご飯粒が見えやすいかな、と思ったのだ。このお茶碗とオレンジ色の箸を間違えずに選んでいる。服や帽子や靴は、自分の物は自分の物、他人の物も自分の物、のくせに、お茶碗は見分けるのだ。自分でご飯をよそうと、ほんのちょっとしか入れていない。私が入れると、いっぱい食べるのに、ね。「一人で食べて」と言ってほっておくと、おかずも残すし、フルーツは残す。「全部食べたら叱られる」と思っているのだろう。