相撲観戦

 私が台所で手紙を書いていると、ばあちゃんがトイレに来た。廊下をうろつき、ドアノブをガチャガチャも困るので、トイレまで迎えに行き、手を洗わせて台所に連れてきた。テーブルで、私がすることをじっと見ている。
「けっこやなー」始まった。「5時や。ふ〜ん。けっこでんな。上手な〜」あらあら、私の字をほめているの?上手なはず、ないやん。ぼける前は「おじいちゃんは字が上手やけど、お前らは下手やな」と言っていたやん。さては、私のこと、ステイの事務所の職員だと思っているな。夫がドアの隙間からのぞいたのを目ざとくみつけ「お医者さんでっか」と言う。
「けっこやな〜」と言いながらテーブルの上に置いたホッチキスの針の箱をいじる。お菓子の箱だと思っているのだ。空き瓶、椅子にかけたスーパーのレジ袋をいじる。食べ物が無い。テレビの相撲に目をやり「ようけ、字、書いてあるで」と言う。電光掲示板だ。「けっこやわ〜」「ほんまにな〜」と言いながら、目はテーブルを物色中、手はテーブル上の物を順に触っていく。
 5時17分になった。「ありがたいこっちゃ」と言うのは「そろそろ食いたい」という意味だろう。「ふ〜ん、えらい元気で押して出たったよ。ぽっぽぽっぽ押したら、いっぺんやな〜。ほぅ」と言う。なんと、相撲取りの動作を表現したよ。どこまでわかっているのだろう。もう食べさせることにした。テレビを消して、トイレに行く。中で「けっこうやな〜、ありがとうございます」と言っている。こんなもん、ただの口癖やんか。
 それにしても今日はおとなしく暮らせた。