執念

 ばあちゃんがステイから帰った。「今晩、ここで泊まるのかな?」と言いながら、車から降りた。
 がらがら声ダ。スタッフに「風邪引いてます。声がかすれます」と言われた。寝かせた。
 ましになったんだろう。廊下に出て「寝てる、て、お母ちゃんに言わんなん」と探しまわったそうだ。私が帰ると、麦藁帽子を持って私の部屋にいた。何を探していたのだろう?次に玄関から外に出る。帽子なしで「畑」と言う。そのつど連れ戻し「2回目よ」「3回目」「4回目」「5回目」「6回目」記憶しないのも当たり前だし、そのうち時間がくれば忘れるか、おさまるか、と思ったのだ。そのあと、玄関を開けた音が無いのに、門を開けた音がする。台所の窓から見たが、見えない。変だな?しばらくして、応接間の戸の隙間からばあちゃんの部屋を見ると、ベッドにはばあちゃんがいない。応接間の硝子戸の鍵が開いている。ここから出たのかな?ばあちゃんの部屋の硝子戸も開いている。靴はあるから、靴下のままで出たのだろう。執念というしかない。家中の鍵をかけて、待ち構えてやろう。5時だ。
 もう暗い。門がカチャッという。帰ってきたらしい。が、玄関の戸が開いた。しまった。ここの鍵をかけ忘れた。真っ暗な中、ばあちゃんが入って来る。靴下のままだ。ぬれている。冷たい、とか、わからないのかしら?