数を数える

 今、4時。私は応接までパソコン中。ばあちゃんは布団に入って数を数えている。97、98、99、1〜00、1、2、3、...テレビの音が低く聞こえる。十の位だけ、さ〜んじゅう、し〜じゅう、ご〜じゅう...おもしろく伸びる。
 さっき、私が散歩から帰ると、台所に明かりがついていた。明かりを消して鍵をかけたはずだったのに...ばあちゃんがもぐもぐしている。「何してるの?」と訊くと「なにもしてへん」ばあちゃんにはまだ「冷蔵庫を開けて食べる」力が残っていたのだ。嬉々として開けては食べ、指をなめ、していたに違いない。廊下の戸は鍵をかけたが、玄関に通じる方が開いていた!まったく初歩的なミス。あ〜あ、また入られた。炊飯器に水滴がついている。濡れた手で触ったのだろう。テーブルの上の片手鍋のふたも、冷蔵庫の中のおかずパックも、ベタベタだ。いくら食べたかわからない。だが「なにもしてへん」と言うのは、まだその時点で自分が食べている記憶がある。
「ここは閉めるからばあちゃんの部屋に行って」と言うと出て行った。そのままベッドに入り、数を数えていたのだろうか?
 4時15分、突然、ばあちゃんの部屋と応接間の間の戸が開いて、ばあちゃんが顔を出した。「ここに入ろぅか?」えらく興奮している。「ここは開けたらあかん」と閉めると、廊下側の入り口に回ってきた。「むこぅに行かんでもよろしぃか?お母ちゃん」と言う。どこで切れているのやら、どこまでつながっているのやらわからない。勝手に出て行った。台所のドアノブをガチャガチャする。自分の部屋に戻った。また応接間にきて「むこぅに行かんでもよろしぃか?」どこに行くのだろう?また出て行って、またドアをガチャガチャして、部屋に戻って、数を数えている。これも独り言?口癖?それにしても、なかなかスピードが速くて異様な感じだ。何かに駆られているのだろうか?
 37分、突然静かになった。寝てしまった?いや、上体を起こして窓の外を見ている。50分、窓も閉めて寝てしまった。57分来て「おかあちゃん、ここ、電気、消しといてよ。こっち来るとき、消しといてよ。言わな、悪いおもぅてな」なんなんだ?これ?興奮さめず。