墓参り

 ばあちゃんは部屋にいると寝てばかりだ。1時に起こして昼ご飯にしたら、また寝てしまう。私一人で、しきみを切りに畑に行ったが、国道の気温表示は12度だ。曇り、風無し。東の空に虹が見える。これだけ暖かいなら大丈夫、ばあちゃんを連れに帰る。2時からばあちゃんと一緒に墓参りに行く。 先に歩くと、ばあちゃんはついて来る。
 墓の入り口でじっと立っているので、手招きすると入ってきた。うちの墓まで来たが、目の前の物が何であるかはわからないようだ。「何しまひょ?」と言いながら見ている。「拝まないの?」と訊くと、パンパンと手を打った。それは神様なんだけど...ま、いいか。
 帰らずに畑に行った。私が葉牡丹を引いていると、杖にもたれてじっと見ていた。そのうち、しゃがんで、また向うに行って、草の密集地を避けて、無い所をちょっと引くポーズをした。向うの厨房から出てきたおじさんが電話をかけているのを見ている。怪しいぞ。ついて行くだろう。やっぱり、電話が終わると、ばあちゃんはつかつかとおじさんに近づき、あとをついて行く。おじさんは(調理師さん)「これは事務所に渡さねば...」と思ったらしく先に歩く。私が走ってやっと追いついた。「すみませ〜ん」で引き取ってきた。「ばあちゃん、池に行って手を洗い」と言うと、そばに行ってしゃがんで池の水に手をつっこんだ。かしこい、かしこい。そのまま、すたすた帰ってしまった。速い、速い。私がスコップを小屋に入れに行っているまにトンネルに入ったらしかった。下の道に出てやっと追いついた。
 夕方、従姉妹が隣の畑に来た。じいちゃんの命日の話をする。「『わかりません』言うてなぁ」と言うと従姉妹は「えっ?わからへんの?」と驚く。「私の顔がわからへんのやで。毎日一緒にいる私がわからんのに、目の前におらんおじいちゃんがわかるか?」と言っても想像がつかないらしい。墓の話をすると「自分とこの墓もわからへんの?そら、もうどこかへ預けな、しゃあないで」と言う。「預ける」か?これしか思いつかんか?ワンパターンやなぁ。