ほうれん草

 ばあちゃんは朝はJAの職員さんが来ると「行きますのんか?」と迎えの車と思い込み、コープさんが配達に来ると「その車でっか?」とまたまた出てくる。帰ってしまうと、部屋にひっこみ、布団でねている。
 昼ご飯に起きてきたのが午後1時。また部屋に戻り、ぬくいのに布団にいるから、畑に連れ出した。私が犬を小屋につないで道具を持つと、ばあちゃんは犬を連れてついて来る。「犬をつないできて」と言うと、困った顔になる。「草を引け」と言うと情けない顔をする。しばらく犬と徘徊。犬を取り上げる。
 草引きは嫌いらしい。ふと見ると、私がいるところへ来て「おっちゃん、よう、知っとってや」と言う。さわるな!種を蒔いているのだ。「向うで引いてきて」と言うと、草のない畝ばかり行く。ひよどりにかじられて、わずかばかり残っていたほうれん草も、ちゃんと引かれ、畝に積み上げられている! あはは。どうしようもない。もうすぐ帰ろうというころになって、夢中になって引いていた。でもそれは、鎌をみつけたからかも知れない。道具が無いとやる気にならないのかもしれない。