ケアマネ君の訪問日

 ばあちゃんは昼寝していた。途中で起きてきたので「手をあらっておやつにしよう」と言い、連れて行く。「ほう〜、よう来てくれた。うれしいわぁ」と喜ぶ。「なんで?」と訊くと、ケアマネ君は「僕のことは、なじみの顔だと思っているのでしょう」と言う。「私がいるのに『誰もおってやない』って、誰を探しているの?空気を共有する人?」そんなものらしい。だって、ばあちゃんが喜んで笑うんだもの。「ベターケアの社長さんが取材に来たときに、笑顔の写真が撮れる様に伝授してよ」と笑わせ方を習う。あはは。「やらせ」になるかな?怒っている顔も、普通の顔も撮ってもらおう。
 ばあちゃんはご機嫌で「よう来てくれた。会えて嬉しいわぁ」を繰り返していた。一生懸命話をして、もてなしているつもりらしかった。「おっちゃん」と呼んでいたのが「あんた、孫さんは?」と言い出す。ケアマネ君は苦笑して「僕はまだ孫はいません」と大声で言う。「そうやで。まだ若いよ」と私が言うと「そうか」...ケアマネ君が「今、おいくつなんですか?」と訊くと、ばあちゃんは聞こえないらしく、とんちんかんな返事をする。大きな声でまた訊くと「そんなん、はずかしぃて言われしまへん」「50ぐらいですか?」「もっといってます」「60ですか?」「そんな、いってしまへん」あ〜、50後半か?孫ができたぐらいの年齢だ。ばあちゃんはばりばりの主婦で、百姓をし、孫のお守りをしていたころだ。これがばあちゃんの「一番輝いていたころ」ね。
 ばあちゃんの声がかすれてきた。「これだけ、しゃべったら、もう寝るんちゃう?」と私が言うと「客をもてなしてくれてはるんですよ。お疲れでしょう」とケアマネ君も言う。この手でいけば、カメラマンさんに「笑顔のばあちゃん」を撮ってもらえるかも?いつ来てもらおうかな〜?