ボタンだ!なめるな!

 ばあちゃんが部屋に戻っている。晩ご飯を呼びに行く。ばあちゃんは布団に入り、クチャクチャしている。何を食べてるの?「出して」と言うと、手のひらに出してきたのは、ボタンだった!中小2つ。ボタン!ばあちゃんの縁側の箪笥には裁縫箱の横に、使い古しボタンの入ったビニール袋がある。こんなもの、なめるな!のどに入ったらどうする?
 「食べ物あさり」をしなくなったのだ。台所には鍵をかけたが、下の間(しものま)には小さい冷蔵庫があるし、その向かい側にはまだお菓子やおかずや調味料が入った箱がある。探せば「食べ物」はある。でも、探さない。お経をあげたあと、箱のミニろうそくを持ち出し、ポケットにいれていたので、もう、余分なろうそくは置いていない。たまに「いただき物」の菓子箱が供えたまま置いてあるが、そんなものは持っていかない。「食べる物」と認識していないのだろう。
 なのに、ボタンをなめている。入れ歯を探したあとで、自分でも箪笥を開けてみつけたのだろう。夫に言うと「姉さんになってきたやんか」と言う。ばあちゃんの姉さんは、徘徊中に落ちている物を食べてそれが原因でおなかをこわして死んだ。家族にすれば情けない。もう「食べる物」と「食べてはいけない物」を見分けられないようになった、ということか。
 近所の人が「入れ歯を食べ物と間違えて、叩き割った」という話を思い出す。もう、家ではみられないよ〜。どれもこれも、ばあちゃんの視界から消すなんて、不可能に近い。ずっと前に「排水管の洗浄剤」を紙に包んでいたときは、棚の上の方に移動した。
 ボタンなんか、どこにあるかわからない。とりあえず、そのボタン、ビニール袋ごと捨てた!私が再利用?私だってたくさん持っている。いらん!ばあちゃんを立たせて「ポケットの中の物、出して」と言うと、あった、あった。紙に包んだボタンが何個か、ころんと落ちた。
 まるちゃんに言ってみる。「飴ちゃんに見えたんやね」私もわかっているさ。「赤ちゃんやね」そうね。私「もう、ここまで来ると、家ではみられないよ〜。死んで解剖して、おなかからボタンがぞろぞろ、なんて、私がどう言われる?監督不行き届きやんか!」