「ばあちゃんがおかしい」と思い始めた頃

 ばあちゃんは午年、今年で90歳。
 80歳ぐらいから「おかしい」 でもまぁ、にんげん、80年も生きれば、体が動かなくなるか、頭が働かなくなるか、どちらかで、普通でしょう。というわけで、ばあちゃんは「アルツハイマー病」の診断は受けていない。そもそも専門の神経科の先生に診てもらったのは「おかしい」と思い始めたころの1回だけで、あとはいつもの福祉センター診療所の内科の先生である。「先生、ばあちゃんがおかしいです」と言うと「そうかな?こんなもんでしょう」もっとおかしくなってからまた言うと「そういえば、同じことを何回も言うかな」で、内科の先生はまったく気づいてくれなかった!
 家族はもっと早くに気づくのである。
 ばあちゃんは百姓だ。50年も野菜を作っているのに、その年、40cmに植えるトマト・茄子・キュウリの間隔が狭い。ばあちゃんの姪が来て「おばちゃん、これは狭いで。中の1本を抜いたらちょうどやで」次の年は植える間隔を忘れ、隣の畑までものさし代わりの竹の棒を持って測りに行っていた。もうその次の年には「植えよう」という気がなくなり、世話だけしていた。
 昔は植えて収穫したら新しい住宅の人にあげて友達になっていた。うちへは持って帰らず、友達にあげてしまったこともあった。でも、収穫もしなくなった。
 それでも、畑に行く。むきになって行く。「草、引かんと草が絶えへん」と言う。毎日引いたら、畝は綺麗に草が無い。畑の周りの草も引き、高い土手まで引きに行く。「ばあちゃん、周りの草は草刈り機で私が刈るから引かなくていい。土手を引くと土が流れ、土手が崩れる」と言ってもきかない。
 こんなばあちゃん、いるだろうか?毎日、かたきうちみたいに、畑、畑、畑、草、草、草...
 次男が大学に入る前にパソコンを買った。インターネットで調べた。「こんなばあちゃん、よそにもいるの?」...みつからない...
 パソコン雑誌に「無料のホームページに日記を書こう」ならば、自分で書こう。タイトルは「たたかうおばあちゃん」私のペンネームが「すもも」響きがいいでしょ?甘くも酸っぱくもありませんよ。
 ばあちゃん「何と戦っているの?」草でしょう。
 でも「わしは悪くない。お前が悪い」はぁ、今も死んだ姑と戦っているんかね?友達が言う。「世間よ!世間と闘っているの!」
 別の友達が「日記を貼り付けてワード文書にする」方法を教えてくれた。プリントして、知り合ったばかりのまるちゃんこと丸尾多重子さんにあげた。「おもしろい!本を読むのが苦手なまるちゃんが、これはぐんぐん読めます」ならば...とコーピーして友達にも読んでもらった。近所でも...「ばあちゃん、めっちゃ、おもろいな」これが関西人である。あはは!笑っていなくちゃやっていけない。