夜中

 昨夜、12時ごろ、ばあちゃんが起きてきた。引き戸をガラッと開ける音がした。何やらつぶやき、枕カバーを腰に当てている。珍しくトイレにおきたのだろう。いつものように、優しく「寝るねんで。夜やで」と言ってベッドに入れる。
 しばらくするとまた起きてきた。またベッドに入れる。また起きてきた。興奮してあかん。
 ほっておいた。また起きた音がするので、私は台所にこもり、鍵をかけて電灯を消した。ばあちゃんはあきらめない。久しくしていないことだが、ドアノブをガチャガチャし「どうしたらええのか、わからへん」と言いながら、廊下のドア、玄関側のドアと移動する。下の間の引き戸も開けている。私の部屋にも入ってビニールのレジ袋をカシャカシャしている。もちろん、真っ暗闇のはずだ。玄関は道路があるので、電灯がうす明るい。
 あきらめない。しつこい。しつこい。自分の部屋がわからないので、戻る気配はない。
 しかたなく、ばあちゃんのいないほうのドアから廊下に出て、ばあちゃんに近づく。背中をおしていき、ベッドに入れる。すぐに起き上がるので、手のあたりの布団を押さえる。しばらく待って放して様子を見る。また起きる。また手を押さえる。また放してみている。今度は窓を開けかけたので、止める。また押さえて、また放してもうやめた。台所は暗がりのまま、私はお風呂に入った。
 もう起きてこなかった。
 今朝は起こすと、ボーッとして、いちだんと活力がおちていた。昨夜でエネルギーを使ってしまったのだろう。「ふぬけ」ばあちゃんになっていた。デイの用意ができてもテーブルにもたれてジーッとしていた。このほうがほっておいて仕事ができるからいいのだが...
 ばあちゃんには「ほどほど」が無いのだ。