形見

昨日、ご近所の先輩を訪ねたら、ばあちゃんが編んでいたセーターと同じのを着ておられた。
私が目を丸くしていると「ばあちゃんの形見よ」と言われた。まだ新しいので、もらっていただいたのだった。忘れていた。すんだら忘れる性格なので、ねぇ。
「あったかいよ〜」と言われる。純毛モヘアの上等の糸だったのよ。段染めの糸でね。居合わせたお友達が「不思議な編み方ね」と言われた。まず30cmの幅の正方形を編み、先を三角に減らす。これが前身ごろになる。次は正方形部分の15cmのところから目を拾い、また30cmの幅にして長方形を編む。これが袖になる。次は後見ごろを編み、最後は背中の襟元を編んで残った袖を編む。それをたたんで、脇を綴じる。折りたたみニットなのだ。出来上がりは不思議だが、編み方は単純で、編むときに縄目とか、すかしを入れたら綺麗な模様になり、ばあちゃんはお得意だった。
 姉妹の分を編んでいたら、人気になり、友人知人の分も編んでいた。冬は編み物をしていると、外に行かないので、風邪もひかない。私も一緒に編み物にせいをだしていたものだった。
 ぼけてくると、寸法がわからなくなり、姉さんに「小さいから編みなおして」と言われ、返品されてきた。そんなこともあったっけ。きっちり編むので型崩れもなく、綺麗だった。そのかわり「お前は手がゆるいから、下手!」と言うあたり、にくたらしかった。
 2007年、介護情報誌「ベターケア」の取材のときは「ばあちゃん、セーター、見せてあげて」と言うと、帽子をかぶったりして見せるが、「これ、ばあちゃんが編んだの?」ときかれ「知らん!」と言ったり「どない、するんでっか?たたむんでっか?」と聞いたり、なかなかであった。
 今となっては、思い出かな?
 この取材は、私には大きな転機で「これでいいのだ」という、ばあちゃんとの暮らしに自信がもてたことだった。
 今は「ぴんときた!」介護家族がいたら「ベターケア・百人百色の介護」に紹介して取材に行ってもらっている。今年は一組、成立した。また、アンテナを立てておいて、頑張ろうと思う。ぴんとくる!ことが大切で、おいそれと、いるものではない。