函館

 帰りのバスは有馬行きだった。
 けっこう混んでいた。隣に座った人に聞いてみた。
有馬温泉ですか?」「はい」「どちらからですか?」「函館です」「えー、函館?行きましたよ。車椅子の旅です。函館山に行きましたよ。小雨で夜景が見えませんでした」「あら〜、残念でしたね」「五稜郭に行きました。洞爺湖も行きましたよ。」と、名刺をあげる。
「母が認知症だったので、介護ブログ、書きました。うちのばあちゃんをショートステイに預けて行きました。認知症のばあちゃんの世話係で、ずっと手をつないでいたんです。その人の娘さんが、『ばあちゃんを無人島に置いてきて』言うんです。『無人島、行かへんよ』言うと『湖に放り込んできて』言うんです。ロープウェイ乗って、『あら〜、湖、届かへん』」言うと、一緒に行った人が、『大きい声で言うたら警察来るよ』言うから、『小さい声で言うから来るんや』てね。」「あはは」「こんなアホなこと言うのが関西人。つらいことは忘れて、笑ってないと介護はできひん。有馬温泉行く前に、変な人に会ったと思ってね」

家に帰って、函館に一緒に行った人に電話した。
「先輩、ロープウェイおりたときに『私がばあちゃんみていてあげるから、あなた、ひとりで遊んでおいで』って、言うてくれはったよ」と言うと「あら〜、忘れたわ」ですって。
 その認知症ばあちゃんをずっと連れていたから、遊べなかった。言ってもらって嬉しかったら覚えているのよ。