ゆず

 そばに行くだけで香りがする。
 とげが痛い。
 「新鮮な証拠?」ときくので「それはきゅうりのいぼの話。とげはいつもある。敵から身を守っているのよ」と答える。
 「みかんの木にはアゲハチョウが来るよ」「そうだよ。みかんの仲間は種を蒔くとすぐに生えるよ。木が若いときはアゲハチョウが来るよ。白い卵が白黒の幼虫になって、脱皮して緑の幼虫になるやろ。頭をツンツンすると、角を出すやろ。くさい!その匂いが、みかんのにおい」
 「そうか」「柚子が好きだから、木を植えてみたいんです」とあわ姫が言う。
 「『桃栗3年柿8年柚子のおおばか13年』というように、なかなか実がならないよ。うちのばあちゃんは『ならへんから教えたった』言うて、柚子をよそでもらってきて木にぶら下げたんだって。次の年に柚子がなった。その話をしたら『えっ?教えたら、実がなるん?』てきいた人がいたよ。嘘に決まってるやんか。ばあちゃんに騙されてどうする?たまたま13年たって、なる年に重なったんや」