「畑、行ってきます」

 デイから帰ると、ばあちゃんはあわてて「畑、行ってきます」と言う。「はぁはぁ、どうぞ」と言ったものの、待てよ、ほっとくとまた、診療所に行ってしまうか?見に行こうと、外に出ると、近所のみちこさんが犬と散歩していた。人なつっこい犬をさわってあげていると、みちこさんが言う。「この前、おばあちゃんが『すもも、知りまへんか?』と言うの。『たたかうおばあちゃん』に書いてあったとおりや。」あのな、そう言うか?「『家で待ってたら、ええよ』と言うといたよ」ありがとう。「その前は『今日は、デイサービス、行く日やろか?』と訊くねん。書いてあったとおりや」あのな、ドラマの脚本と違うねんで。「『違うと思うよ』と言うといたわ」ありがとう。「一人で行っても、診療所でストップやろ?」まあな。でも、神社に行ったことがあるわ。「えーっ、それはあかん。どこかの溝にはまって死んでても、わからへん。」最悪の例を出さんといてよ。
 すると、ばあちゃんが帰ってきた。みちこさんは「ばあちゃん、歩くの、速いな。私も負けそうや」と言う。「でも、いきなり、横断するで」と私が言うと「息子に『ばあちゃんを見たら、赤信号。徐行しなさい』と言うといたわ」それは、それは...本当です。私が「夕方、薄暗くなるころ、見えにくいやろ。ばあちゃんは黒い服、着てるし、車はまだライトをつけてないし」と言うと「ピカピカの夜光塗料の布を買ってきて、服に縫い付けたらいいよ」ほんとね、いつかはそうする必要があるだろうね。