この年でも、覚える

 たとえば、箸の使い方。ぎこちなくなってきたので、毎食前に「お箸の練習」をすることにした。できる、できる。おかげで豆も、豆腐も上手につまむ。ご飯粒も残さない。
 ご飯もつまらずに食べる。これは、ご飯を口に入れてお茶で流しこむ習慣をやめて、食べてから水を飲むことにしたのだ。
 食後の薬だ。前は「胃腸が丈夫でしあわせ。お母さんのおかげ。胃薬いらない。ありがたい」のメモに続いて「血のめぐりを良くする薬」のメモを見せていた。このごろ「胃腸が丈夫」メモだけにして「では、これは何の薬?」と訊いてみると「腸の薬」と言ったりする。「違うよ。もう1回読んで」と言うと、読んでから「血のめぐりをよくする薬」と言う。覚えているのだ!
 そう言えば、この前、グループホームの見学に行ったとき、しず子さんがヘルパーの虎ちゃんと一緒に参加された。しず子さんは、皆の質問を聞いているうち、「尼崎の福祉は...その点、西宮市は...」と、的を得た分析を披露しておられた。私達は「すごい!さすが、元先生だ」と感心したが、あとで虎ちゃんに聞くと「しず子さんねぇ、『今、どこに行って来たんだった?』と訊くのよ。でも、講演のときにノートをとるのがバッチリで、頼りになるよ」そうなんだ。理解と分析と過去の記憶の引き出しのうちのある部分は健在で、現在の瑣末な諸々は記憶に値しないのだ、きっと。
 しず子さんと話していると、楽しいのに、ばあちゃんと話すと腹がたつのは、何故だろう?ばあちゃんが、性格が暗いからか?文句言いだからか?