「すんまへん」

 ばあちゃんがデイサービスに行ったあと、雨が降ってきた。春なのに冷たい雨だ。
 ばあちゃんは帰ると、メモを握り「木曜日にななくさ行きや」と言いながら「今日、何日や?」と新聞を見たり、私に尋ねたり、うろうろうろうろしていた。ほっとくしかない。
 玄関に行き、外を見て「今日は雨やから、畑、行かれへん」と言う。言い訳してる?以前のように「ええ天気に家におったら、怒られる」とは言わなくなった。それだけの気がまわらなくなった、ということ。
 私はほっといて、仕事に没頭した。こんなときは単純作業。同窓会で、3人の先生方にプレゼントをする。有馬温泉炭酸せんべいを注文してある。泉堂さんだ。(ちょっとコマーシャルでした。)次に私の手作り梅酒をペットボトルに入れ、梅干を容器につめた。あとは花束?ちょっと予算も注文する暇もない。ここは例の花たわし。それも、虹の七色。バラの花に葉が1枚ついた形だが、束にできないので、ハワイのレイのように7つをつないで、首からかけよう。そのまま記念撮影をしたら、先生方、ちょっと恥かしがられるよ。まぁ、我慢してもらおう。その花たわしをせっせと編んだ。
 ばあちゃんはあきらめたようだ。おとなしくなった。
 「そろそろ晩ご飯」と思ったのだろう。部屋から出てきた。「すんまへん」と言う。「何にもせんとすんまへん」と言う。これはステイ気分だ。「何したらよろしいのん?」と職員につきまとい、夕方になってしまったあいさつだ。
 手を洗ってから台所に連れて行った。メモ作戦。メモ「ばあちゃん、すんまへん、すんまへん、が癖になるなら、もう、ななくさ行きはやめて」ばあちゃん「は、行かしまへん」私「なんで?」ばあちゃん「行っても、何の役にもたてしまへん」?えらいこと言い出した。これは大変。私「なんで?」ばあちゃん「こんなもん、何もできしまへん」自分が人の役にたたない、と言っているのかな? メモを書く「ばあちゃんは、役にたっているよ。ばあちゃんを見ていると、皆は『もんく言うたらあかん』『ぐち言うて暮らしたらあかん』と覚えたよ。ばあちゃんのおかげだ」 これは理解不能よねぇ。わかっていて、書くのだから、私も意地が悪い。根性わるや!