スィッチ

 あきらめて、昼ご飯を呼びに行く。昼ご飯のあとは、「部屋で休み」と言うと、台所から出て行った。
 すぐに戻ってきた。「かばんが無いで」と言う。「ばあちゃん、なんで、かばんがいるの?」ばあちゃんは「ななくさに持って行かんならん。迎えに来てやろ?」と言う。「来ないよ。今日は行かないよ」と、何度言ってもだめ。午後なのに「デイサービス」のスィッチが入ってしまった。
 もっと前なら、「土・日は休み」で納得した。平日で「行かない日」は納得しないが、9時をまわったらあきらめて畑に行く気になった。今は「9時」という時間の感覚がないし、曜日もないから説得のしようがない。
 ふだん着に帽子なし、つっかけのまま、外で道路の端っこの草を引きながら、迎えに来るのを待っている。私は後片付けのすむまでほっておくことにして、洗い物をした。終わって「ばあちゃん、行くよ。帽子を着て、長靴はいて」と声をかけると「どこ、行くのんどいな?」と言う。「畑!」と言うと「来てやったら、どないするのん?」と言う。「来ないよ。畑に行くよ」と一緒に歩き出すと「来た!」と言って、立ち止まる。どんな車でも、ばあちゃんのは「お迎え」に見えるらしい。横をすーっと通り過ぎて行った。何台も見送って、トンネルまで来ると、やっとあきらめたらしい。畑に着くと、何事もなかったように、あっちこっち、と草引きに没頭した。