豊年エビ

 となりの田んぼに「変なのがいるよ」と子供らが言う。「おたまじゃくしとは違うで。緑色で、足があって、ふにゃふにゃ〜と泳ぐで」
 あ、それは「エビ」よ。
 早速、ネットで検索する。「豊年エビ」だ。
 何年も前、家で「カスミサンショウウオ」の卵から幼生を飼育していた時のこと、田んぼにえさをとりに行った。小さな虫かプランクトンの類がウヨウヨいるかなと思ったのだ。貝のような形で、足がサワサワ、というのがいた。とても小さかった。高校の生物の先生に手紙を出すと、すぐに返事をくださった。
 「それは『貝エビ』です。ほかには、『カブトエビ』も『ホウネンエビ』も同じなかまです。」
 あ、カブトエビ! 勤め先の学校のそばの田んぼで、初めて見たとき、私はとても興奮して「カブトガニだ!」とさわぎ、早速つかまえて、水槽に入れ、教室に持ち込んだ。「カブトエビ」だった。カブトガニは瀬戸内海にいて、もっとずっと大きいのだ。そんなものが、田んぼにいるはずがない。
 こいつらは、卵のままで、土の中に眠っている。土が乾いても、卵は何年も生きているそうだ。田んぼに水を張ると、2〜3週間で孵化し、泳ぐようになる。寿命は2〜3週間。その間に何度か脱皮をくりかえし、成虫になって、卵を残して死んでしまう。
 裏の田んぼのホウネンエビはまだ、小さくて丸く、緑が濃い。隣りの田んぼには、先に水が入ったためか、もうエビも大きくなっていて、細長く、小さめのメダカぐらいになっている。ちゃんと尾がある。食べるエビに似て、尾が二つに分かれている。エビのように細い足(繊毛)を動かして泳ぐ。このエビが大量発生した年に豊作だったので、「ホウネンエビ」という名がついたのだそうだ。 
 ホタル、おたまじゃくし、エビたち、タニシまで戻ってきた。下水道の完備でこのあたりの小川の水が綺麗になったおかげだろう。
 しかし、山を削り、住宅地にして、道路も舗装し、溝もコンクリートにしたため、山自体の保水力は落ちているだろう。降った雨水はあっというまに流れてしまい、山の中の溜池には水が無い。田植えができないのは、降水量の不足だけではなしに、ここらへんにも原因があると思われる。