分離

 今日も暑い。
 午後、ばあちゃんが引いたあとを見ると、らっきょうがころがっている。根がもう乾いているので、今日か昨日か、わからない。
 「ばあちゃん、らっきょう、引いたら、あかんやんか」と言うと「わし、知らん」
 池のそばの水道(山の水)で手を洗い、木陰に移動して、冷たいお茶をわたす。
「ばあちゃん、草は毎日、引いてるから、もうないやろ。帰り」と言うと「怒られる」と言う。「誰に怒られるの?」「みちこ」 え? では「これは、誰?」と私をさしてみる。「お母ちゃん」
 分離した。私と「お母ちゃん」、名前と呼び名。ばあちゃんの娘は「幼いまま」なの? でも、「怒られる」と言うからには、違うなあ。さっぱり、わからん。
「怒るのは、ゆきえさんでしょ。『仕事、せえへん』て言うんでしょ。大丈夫。私がゆきえさんに『怒ったら、あかん』て、こんこんと、言うてきかせてあげる。だから、心配せんと、家に帰り」と言ってみる。言っておいて、さっさとその場を離れる。
 ばあちゃんは「ゆきえ、ゆきえ、て、どこにおるか、知っとるのんかいな?」とつぶやいている。ゆきえ、って、ばあちゃんのなまえ!