ゆかはり

 台所の床を貼る。歩くと所々がへこむのだ。大工さんに言うと「この上から新しい板を貼る」と言う。昨日は食器棚の中の物を、上の間に移動した。畳の上に食器を並べているのに、ばあちゃんは何も言わない。お経をあげに、朝夕、上の間に来るのに、まったく気がつかない。
 今朝はばあちゃんを早く起こしたら、7時には「畑、行ってくるわ」と言って、出て行った。しめしめ、うまくいったわ。いないまに、やらなくては、ね。かえってきたら気がつくだろうか?
 大工さんは二人で、まず、応接間の天井の真ん中部分を貼った。終わって10時のお茶タイム。
 ばあちゃんにも、飲ませに行く。畝の中のばあちゃんをつかまえて、池まで連れてくる。ホースの水を出して手を洗いついでに、冷やす。毎回「帽子を脱いで。手ぬぐいで手をふいて」と言わないと、何のために帽子をぬいだのか、わからないらしい。手をふくために、頭に手ぬぐいをかぶらせているのだ。もっとわかっているころは、頭の手ぬぐいを裂いて包帯に使うためだった。今は鎌を使わないので、けがをすることがないから、わからなくてもいいけれど...
 木陰に移動して、飲み物を渡す。これも毎回「何、するのんどいな?」と訊く。私の手にある飲み物をもらえるとは、気がまわらないらしい。今日は冷たいお茶を持って行った。今日は気づいて「おくれ!」と言う。ごくごく飲んだ。よっぽど、暑かったのだ。
 飲み終わると、また草引きに戻った。見ていると、道具を持つでもなく、手で小さな草を引いては、左手に持ち替えて、のろのろと行く。あ、これはあかん。11時だが、もう連れて帰ろう。
 トンネルを出て家に近づいた頃、大工さんのワゴン車がうちの前に止まっているのが見えた。ばあちゃんは「車がおる」と言う。お迎えに来てくれた、と思ったのだろう。「大工さんやで」と言うと「そうかぁ」と言う。「こんにちわ、言うんやで」と言うと、まぁ、あいさつは「えらい、すんまへん」とおべんちゃらを言う。
 台所は工事中なので、ばあちゃんの部屋でご飯を食べる。見ていると、一人でさっさと食べている。大丈夫だ。ご飯をつまらせることもなく、食べ終わった。以前は一人で食べると、がさがさとあわてて、ご飯をお茶で流し込んで、つまっていることが多かった。今は一人で食べられる。毎日、一口ずつ、しっかり噛むように訓練しているもんなぁ。これで安心して野放しにするのではなく、またしっかり頑張ろう。デイやステイでしっかり食べてもらわないと困る。
 午後は「昼は暑いから外に出ない」と教えてみたが、何度も出て行こうとして、私につかまり、連れ戻された。私としては「時間稼ぎ」で連れ戻す。私に見えないようにこっそり出て行くなら、放っておく。こんなもんだ。見えたら止めてしまう。最後は夫に「畑、行きます」と訴え「はい、どうぞ」で、行ってしまった。
 床貼りは無事終了した。