診療所

 今日は診察に行くことにした。
 まず、いつもの手さげバッグに「8月10日 診療所に行きます。9時に出ます」のメモを入れた。ばあちゃんは、デイサービスと間違えて「車で迎えに来る」と思っている。外出着を出すと、着替えて、門のところで立っている。私も用意ができたので「行くよ」と言うと「迎えに来る」と言う。
「『9時に出ます』でしょう?『迎えに来ます』とは書いてないでしょう。歩いて行くよ」と言うと、納得しかねる。むりやり、手をとって歩き出す。前から車が来るたびに「迎えに来たん、ちゃうか?」と言う...が、止まってはくれない。
 トンネルに入ると、あきらめたらしい。それでも、畑に着くと「ここで待っとったら、ええんか?」と言う。まだ、迎えを待つ気らしい。診療所の窓には照明がついている。「ばあちゃん、もう始まってるよ。早く行かないと」と言うと、歩いてくれた。
 畑をつっきって、建物の横の石段をあがり、横の入り口から入る。ばあちゃんは「ここから入るんか?」と訊く。それなら、いつも「お母ちゃんは来てまへんか」と訊きに行く時は、どこから入るのだろう?
 入って、受付に行く。ソファで待っていると、すぐに看護師さんが「血圧を測りましょう」とやって来た。「歩いて坂道と階段を上がって来たから、今、測ると高いですよ」と私が言うのに、測るから、やっぱりやりなおしになった。看護師、プロなら「運動後は血圧が上昇する」ぐらいは覚えていてよ。そして「ばあちゃんは、てくてく歩いてやってくる」のも、「最後は階段を上がる」も。
 先生は若い男性だった。「暑いから、畑に来る時は、水筒にお茶を入れて持って来てね」とばあちゃんに言ってから「無理か?娘さんが持って来てね」と言われた。ばあちゃんに水筒を渡しても「なんで、こんなもの、持っているの?」だし、どこかに置いたが最後、二度と記憶に戻ってはこない。
「先月の血液検査は異常ありません」だった。「いつもの薬を出しましょう」と言われ、お礼を言って廊下に出た。「何、しとるねん?」とは言うが、以前は「何も診てくれんと、わかるか!」と怒っていたことと比べると、おとなしくなったかな。