老人検診

 ばあちゃんは朝6時にトイレにきて、またねてしまった。
 今日は診療所に行くことにした。洗濯は昨夜したので、ガレージから表に出して干しなおす。
 ばあちゃんが起きたのは7時だ。ちゃんとふだん着を着ている。「もう起きますのんか?」と訊くので「はいはい」と言って、手と顔を洗うのに同行する。「お経をあげる」と言うと仏間に行ったが、聞いていると、舌がまわっていない。
 朝ご飯にする。またがつがつする。また「誰も盗らへん」メモを見せる。三口ぐらい食べて、ようやく落ち着き、ゆっくり口に運ぶようになった。食器の片付けと入れ歯洗いはうまくいった。「もうおわり。部屋に帰って」と言って追いやる。「診療所に行きます」メモを、ばあちゃんの部屋のホームこたつテーブルの上に置いておいたのだ。しばらくして、ばあちゃんはパジャマを着て出てきた。外出だから、着替える、とまで思い出したが、衣桁にかかっていたのは朝、脱いだパジャマだったのだ。「ばあちゃん、これは寝巻き。よそ行きの服はこれよ」と言って渡した。メモには「9時に出ます」と書いておいたので、ばあちゃんは「迎えに来てくれる」と思い込んで「9時や」と言いながら待っていた。
 8時40分に連れて出た。「迎えにくるやろ?」と言うのを「来ないよ。歩いて行く」と言って、連れて行く。畑に着いた。「診療所やで。電気がついているやろ?行くよ」と言ってどんどん先に行くと、ちゃんとついてきた。
 診察の前に「おしっこ、とれるかな?」と言いながら、看護師さんがトイレに連れて行ってくださった。私は廊下で待っていた。ばあちゃんの怒る声は聞こえなかったので、採血も心電図もおとなしくできたようだ。
 診察も女医先生で、異常なし。ただ「おしっこはとれなかったので、今日中に家でとって、持ってきてください」と言われた。無理だ。イライラしてトイレ往復するので、おしっこは出ないよ。
 ばあちゃんは怒りんぼうのままだ。前は、あいそ笑いもおべんちゃんもできたが、もうできない。「お礼を言って、帰るよ」と私が言うと「すんまへん」で怒っているのと変わらない。
 ただ、終わってからは待合のベンイでおとなしくいたので、よしとするか。