コルチカム

 午後もまた雨にふられた。「ばあちゃん、今日は雨で服がぬれたの、2回目やで。今度、ぬれたら、もう着る服、ないよ」
 それでも、ふらふらと出て行く。行きがけに「行くな!」と止めると、かわりの早いばあちゃんは、玄関の球根に目をつけた。「これ、何や?」と訊く。「これは毒!食べて死ぬか?簡単やで」と言うと、ばあちゃんは「そんなこと言うて!あの人に聞いてもらう」と言う。振り返ると、後ろの廊下のくらがりに、夫がいた。暗くて顔が見えないのだろう。近づいて来ると「お父ちゃん、こんなこと言うで!毒食べて死ね!て」
 夫が「死ぬ、という単語には、敏感に反応するなぁ」と言う。そうだよ。2−3日前も、畑から帰るとき、まだ帰りたくないばあちゃんは、トンネルの上で「ここの草、引かんなん」と言う。トンネルの上の狭い空間にのって、草を引くのがばあちゃんの昔からの楽しみらしい。足をすべらせて落ちたら、どうするんだ?そこで「ああ、どうぞ。ここから落ちて、死んだらええがな。楽やで。人が笑うで。『ばあちゃん、落ちて死んだんやて』て言うで」と言うと「死ね、死ね、言うもんがあるか!」と怒った。「死ね」と言うことは理解したわけだ。