遠慮

 私が畑に行こうと、犬を連れて出たら、ばあちゃんがお世話になっている特養にボランティアに行っている人が来た。今日も行くのだ。ほんとうにまめに行ってくれている。帰りに畑で会おうと約束をした。
 昼前に「ばあちゃん、昼だから帰ろう。ご飯よ」と言うと、ばあちゃんは「そこの端まで引きます」と言う。そんなことをしていたら、まだまだ20分以上かかる。ばあちゃんは「帰ろう」と言うと、必ず「端まで」と言う。必ず、逆らう。やめさせて、池の水道で手を洗い、帰ることにする。私が犬を連れて、ばあちゃんはボランティアの彼女と一緒に歩く。ばあちゃんが質問をするたびにやさしく返事をしてくれる。
 トンネルに来た。私は先に歩くが、トンネルの中は声がよく響く。ずいぶん後ろにいる二人の声がよく聞こえる。ばあちゃんは「えらそうに言われどおしやねん」と訴える。「遠慮がないからな。こない言うたらあかん、思わへんから、な」と言っている。これはすごい!ばあちゃんがもっと昔、友達に「嫁さんやったら、遠慮して言わへんことも、娘はずけずけ言う」と訴えていた。それを今も言っているのだ。ぼけてへんやんか!ぼけているんだけれど、これを聞いている限り、他人は「ぼけてない」と思うだろう。その上「他人の嫁姑なら遠慮して言わないことも、母と娘は言う」というのは、そっくり、ばあちゃんにあてはまる。ばあちゃんこそ「口に出してはいけない」ことをずけずけ言っていた。私は、言わない!言ってしまったら、私の負けになる。それぐらいの意地はあるのだ。