「オアシスクラブ」 朝日新聞夕刊「窓」論説委員室から

「福岡市の繁華街にある福岡ビルの7階。
『天神オアシスクラブ』と小さな看板が掛かった部屋のドアを開けた。いきなり歌声に包まれた。『星に願いを』だ。
 男性は上着にネクタイ姿。女性たちも精いっぱいのおしゃれをしている。生のピアノ伴奏にあわせて指導しているのは地元のシャンソン歌手、関雅子さんである。
 次の練習曲も、演歌でも童謡でもなく『セプテンバー・ソング』。『みなさん、英語で歌いましょうか? それとも日本語がいい?』関さんがさらりと聞いた。
 教えられていなければ、ここが認知症(痴呆症)の人たちのためのデイサービスセンターだとはだれも気づかない。ある医療法人が4年前に開いた。
 アルツハイマーなどになって近くのデイサービスデンターに行ったとき、子どものように扱われて違和感を感じる人は少なくない。『プライドをもって通えるように、できるだけ介護くささをなくす努力をしています』。施設長の中島七海さん(55)は話す。防音などに気を使い、ビル内の会社ともなんとか共存している。
『福ビル』。親しみを込めて地元の人たちがこう呼ぶ福岡ビルは、61年にできた。西鉄本社や地元の有力企業が入っている。外観は以前とほとんど変わっていない。新しいビルを覚えられない利用者も、福ビルなら一人で来ることができる。
 送迎の車も入浴サービスもないが、男性の利用者が多い。その盛況ぶりに、福祉のあり方を考えさせられる。」(川名紀美)
 
 良いお話だ。子供だましのリクレーションではないところが良い。