散歩

 ばあちゃんは、畑に行きたがらない。下の神さんだけおがんで帰って来た。しばらくうちにいたが、昼になると、ご飯を求めてうろついていた。畑にいて、草引きに没頭すると、昼ご飯はわすれるのだが、家にいると、他に考える事がないから「ご飯、よんでもらえるんやろか?」と騒ぐ。
 昼ご飯のあとは、外に出て行った。私が一輪車を押してついて行くと、ばあちゃんは畑に着いてもキョロキョロしている。こちらを振り向いて、私の姿を認めたらしい。それ以上、先には進まなかった。もし私がついていなければ、もっと進んで、ななくさのどこかの施設に行ってしまっていただろう。
 私が小豆をむしっていると、育成園の人が何人か散歩に来た。ばあちゃんはその人たちに近づいて話しかける。「わし、どないしたらよろしいのん?」とでも、言っているみたいだ。「ばあちゃんは、何をしているの?」と言われたのかな?「あ、散歩ね」と職員の声が聞こえる。ばあちゃんの声は聞こえにくい。かなり離れているから、ね。「散歩」と言ったのだろう、と推測する。「あんたら、何しとんの?」と訊いたようだ。職員が「うさぎのえさをやりに行くのよ」と言う。「わしも行ってええか?」と言ったようだ。「でも、坂道よ。大丈夫?」と職員が言う。「だめよ。連れて行かないで。放浪癖がついたら、困るからね」と、私が大声で言う。私がいなければ、そこにいる誰でもに、ついて行きそうだ。これは困った。
 そのうちに、葉牡丹を取りに客が来た。うまいぐあいに「わしも行く」から注意がそれて助かった。その客と話をしていると「何したらよろしいのん?」から「この草、ひきますのん?」に変わり、小さな草を1本引いては見せに来るので、困った。どうも、他人がいると、依存的になり、また、その人を味方につけようとする。草引きに没頭するまでに、かなり時間がかかった。