「笑い事やない」

 今日から1月4日までデイは休みだ。新聞を見せながら「12月28日から1月4日まで、ななくさは正月休み」とメモを書く。午前中は、ホームこたつで丸くなって、そのメモをにらんでいた。
 午後、「何かしましょか?」とやってきた。「何するのん?」と訊くと「畑、行ってきます」と言う。「どうぞどうぞ」と言うと、出て行った。今から夜までもつわけない。夕方に出たくなるよりましだ、昼のほうが暖かいもの。
 しばらくして、私が行くと、案の定、畑にはいない。診療所に行っていた。看護師さんに「ほら、迎えに来たよ」と言われている。
 介護士さんがばあちゃんの手を引いて、入り口にやってくる。その人が何か一言言うと、ばあちゃんは「えーっ!」と言う。私が「聞こえてません」と言うと「聞こえますよ。ステイに来たときは聞こえています」と言われる。ステイの職員だったのか。ステイに来ている時は、聞こえる、と言うの?聞こえているのに「えーっ!」と口を尖らせて、訊き返すか?耳に半分入っても、理解まで行かないよ。家では聞こえない、ステイやデイの職員は、聞こえる、と言う。何だろう、これは?緊張しているのか?家と「ななくさ」の区別がついているのか?
 ところが、ばあちゃんは怒る。やさしくされると、よけいに怒る。なめているとしか、思えない。
 次に窓口に行って、「どないしますのん?」と訊く。薬剤師さんが「家に帰り」と言う。相手が笑うと怒る。「笑い事やないわいな」と言う。はっきり聞こえないので、ばかにされたと思うのだろうか?
 帰ろうにも、長靴がない。3つある入り口の、どこを探してもない。何人も人が探してくださったが、ない。「あっちの入り口から、来たよ。どろがついてた」と言われるが、ない。ばあちゃんは「これだ」と指差すが、長靴の中には、私の名前が書いてある。ばあちゃんのには、ばあちゃんの名前が書いてあるのだ。しかたなく、夫に迎えに来てもらって、トラックにばあちゃんだけ乗せた。はきものは、スリッパを借りて帰った。トラックに乗せてもまだ怒っている。運転手が夫だとわかっていないらしい。ばあちゃんだけ帰らせて、私は畑に待たせてある犬を連れに行った。
 とんだ、災難。「笑い事やない」と言いたいのは、私の方だ。大声でわめいて、大迷惑。