怒る

 ばあちゃんは今日、ステイから帰る日だ。今朝、私が家を出るときに、ケアマネさんに「家庭訪問の時に連れて帰ってください」と頼んでおいた。3時半に連れられて帰って来た。車をおりるなり「わかるか!」と言いながら怒る。どうするか、しばらく観察する。
 「ステイでもこんな調子ですか」とケアマネさんに訊いてみる。「長く泊まると怒りますね」なるほど。「もっと長く泊まると?」と訊くと「家での暮らしかたを忘れて、やってゆけなくなる」そうだ。「ばあちゃんは今のまま、ステイに行ったり家にいたりがよいですよ」と言われる。
 が、私が疲れたよ〜。ばあちゃんの急激な退化に、ついていけない。頭では「あれあれ、忘れたんか」と思っても、気持ちがついていけない。「なんなんだよ〜?」と思う。「年とってぼけるなら、若いときに文句と愚痴で暮らさなければよかったのに!」と思う。いやみを言いたくなる。こころが疲れた〜。
 ケアマネさんと話す横の椅子にばあちゃんを座らせた。二人で話していると、割り込んでくる。いちごを中ぐらいの皿に入れて出した。ばあちゃんの小皿に2つ入れてやると、食べた。「それ、食う」と催促して、また2つ食べた。お茶も飲んだ。私の眼鏡ケースを見て「それもくれ」と言う。何?「何を食べるの?」「おかき」と言う。空っぽの眼鏡ケースを見せて「無いやろ」と言うと、やっと納得した。眼鏡ケースのどこを見たら、おかきに見えるん?
 ばあちゃんは「ちょっと、おしっこ、行きます」と言って出て行く。それから自分の部屋に戻る。繰り返している。また、応接間をのぞきに来た。「こんにちわ」と言いながら入ってきた。ばあちゃんの詳しいせりふは忘れた。「お客さん、今、来たの?」と言う感じだ。それに、ケアマネさんが「今、来たばっかりですよ」という感じで合わせるから、すごいのだ。プロは違う。そのつど新鮮!というやつだ。家族にはできないって。それとも「役者」になってみるか?たまにはできるかも?
 ばあちゃんは次に「ちょっと、畑、行ってきます」と言って長靴をはいて外に出た。ケアマネさんが追いかけて出て「今日はもう遅いから、明日にしたらどうですか?」と言う。ばあちゃんは「そうやな」と言いながら、中に入る。入って、長靴を脱ぎながら「今、畑に行ってましてん」と言う。?!!行ったつもりになっているらしい。ケアマネさんは「そうですか。お疲れさま」と言う。漫才よりおもしろい!毎日、こんなふうに暮らせたら、ね。・・・そうは、できんわ。
 3時半から5時まで、こうして繰り返して、最後は本当に「畑に行きます」と出て行った。ケアマネさんは帰り、私は犬を連れて、畑まで追いかけたのだ。