診療所

 「今日はどこへも行ません。こたつでのんびり下さい」というメモがみつかった。ばあちゃんの本だ。表紙がとれてしまって、むき出しの白い紙に書いてある。私が書いたメモを自分なりに書き写したものらしい。便利なので利用することにした。おかげでばあちゃんは昼までおとなしかった。
 昼ご飯がすむと「畑に行きます」というので「ばあちゃんは畑に行くが、草は引かない。診療所に行って大きな声で怒る。皆、困る。家に電話がかかってくる。『ばあちゃんが怒るので迎えに来てください』」と書く。これを口で言っても最後の一言しか耳に入らない。目で見て声を出して読めば「知りません」とか「こんなことしてません」と言うから、わかっているのだ。「そんなら、行かんへん」と部屋に戻った。
 しばらくすると「診療所、行こか?」と出てきた。む?逆やんか。
 犬を連れて後を追う。かなり速い。畑の、まさに、診療所を目指そう、というところで追いついた。「ばあちゃん、行ったらかん」「草、引く」「そこはよその人が植えてるの。畑、じゅくじゅく、ふんだらあかん」と言うと「帰る」と言って帰って行った。うまくいった。