表札

 今日は天気がいま一つなのに、デイの車で花見に行ったらしい。このへんは標高が高いので、大阪よりも宝塚よりも名塩駅周辺よりも桜が遅い。まだつぼみが多い。長く楽しめるので、得した気分だ。
 ばあちゃんはいつもより遅く帰ってきた。もちろん「お花見」は覚えていない。玄関で「ここで、間違いおませんか?」と言っている。家を忘れたらしい。「有馬、と書いてある」と言う。ペンネームに「有馬のお殿様」の名前を借りておく。なにしろ10年以上前に、私が子供会の小学生と「このへんの昔ばなし」を聞き取りにまわっていたころ、うちのばあちゃんは「江戸時代、うちが最初に住みついた。うちは京都の公家が山の尾根伝いに落ちて来た」と言った。となりのじいちゃんは「うちは平家や」と言った。江戸時代に平家がおったのか?「言ったもん勝ち」だ。どっちも同じ百姓だよ。
 そんなわけで、まあまあ、家を忘れたばあちゃんも、表札を見て納得したらしい。ばあちゃんが自分の姓名だけは忘れないのは、デイで呼ばれているのと、毎日食後に飲む薬の小袋に姓名が印字されているおかげだ。