「学校」

 今日はステイだ。起こしに行くと、ばあちゃんは入れ歯をはずして枕元に置いている。「ばあちゃん、なんで、歯、はずしてるの?」と訊くと「痛い」と言う。「なんで?」と訊くと返事が無い。あとではめようと思い、そのままトイレに連れて行こうとしたら、もう自分ではめている。もう「痛い」の忘れたの?それとも「言ったこと」を忘れたの?それとも「痛くないのに、適当に返事をした」の?さっぱりわからん。ばあちゃんがわからずに言っていることを、私がまともに聞いて「痛いなら対処せねば」と思うほうがあわてんぼというもの。ついつい「わかって言っている」とだまされてしまうのだ。
 さて、ご飯がすんだので、ばあちゃんを台所から追い出して鍵をかけ、私は中で洗い物をしていた。ばあちゃんは鍵をがちゃがちゃしても、開かないので裏口にまわったようだ。私が玄関から出てみると、ばあちゃんは麦藁帽子をかぶり、足元は私の長靴だ。裏玄関に置いていたのだ。「ばあちゃん、どこ、行くの?」と訊くと「ななくさ」と言う。百姓は卒業したのか?「ななくさに、何のご用?」と訊くと「学校」なんだって。学校か?デイサービスの最初は「老人会」次に「法事」それから「修行」ついで「講習」ついに「学校」かい?
 私はばあちゃんが行ったらすぐに田んぼに行くつもりなので、もんぺをはいて「野良スタイル」だ。ばあちゃんは、私をしげしげと見て「ほな、わたし、行かんでもよろしぃね、な?どないだす?」と言う。