徘徊的草引き術

 細かい草が一面に生えている。昔のばあちゃんなら「べったらこ」と言う。ばあちゃんは、草がいっぱいある所は嫌いだ。「どこ、引きますのん?」と言うばかりだ。いつもの畑だって、草の無い(少ない)畝を選んで歩いているぐらいだ。
 ともかく今日は、ばあちゃんに「この畝」と見せて、私はその次の畝に陣取った。ばあちゃんは草をちぎっている。頭だけピュッピュッと。「根っこも引きよ」と言うと「はぁはぁ」と返事をしながら、次へ行く。わずか、5分でいやになったらしい。「これも引きますのんか?」とわかりきったことを訊く。ははは。笑える。ひざをついてしゃがむと、自分の足元は引かずに、手を伸ばし、畝の向こう側を引いている。「ばあちゃん、ここも引くのよ」と言って、畝の両側面を見せると、これはまったく無視だった。かまぼこ型の畝なのに、天井だけ引いて側面を残してどうするんだよ。
 そのうち、ちょこっと引いては、立って移動するようになった。完全に飽きている。引いた草を入れるのに、20ℓ入りの肥料の空袋を持たせているが、それをひきずって歩く。徘徊的草引き術。「そっちへ行ってはだめ」と引き戻す。ばあちゃんのお守りをしながら、私も畝1本分、芋のぐるりだけ引き終えた。10時20分だった。小川につけておいたペットボトルのお茶を飲ませてお饅頭でも食べよう、とばあちゃんのところに急いだ。「ばあちゃん、おしっこ、して」と言って、もんぺをおろそうとすると、じゃーっと出た。家に帰るしかない。
 結局「ものは試し」は見事失敗だった。「いつもの畑」以外でばあちゃんが一人で作業できる場所は無い。作業どころか、定着もできない。7月の神社の夏祭りにステイを取らない予定だが、ばあちゃんを連れて祭りに参加するのは無理のようだ。おとなしくじっとしてないもんね。