帰る

 1時45分、ご機嫌なうちに帰ることにする。「おしっこに行かへんか?」と誘う。一人だけ帰るというのは納得しそうにないもんね。「わたし、いらんけど、あんたが行くんやったら、行きます」と言う。ま、いいか。ばあちゃんのおでんもからあげも皆パックに詰めて持って帰る。荷物をまとめて、皆に「手伝わなくてごめん。怒らないうちに帰ります」と挨拶して下に降りる。皆は?ばあちゃんが来た、歩いて来た、と言うだけでびっくりしただろうね。
 でも、いいさ。私達夫婦が第1回の夏祭りをしたとき、90歳半ばのおじいちゃんとおばあちゃんがいて(べつべつの家)、ばあちゃんは家の前でだんじりを引く子供らを見送ってくれ、じいちゃんは途中まで車にのせてもらったが、急な坂道は歩いて上がり「この宮さんにこんな大勢、人が集まったのは初めてや〜」と喜んでくれた。高齢者は来るだけでも意義がある。
 坂道のとちゅうのとんど広場のトイレに入る。出てから「どっちでっか?」と言うので「こっちや。帰るよ」と導く。「どこまででっか?どないしたらええか、わからへん」とうるさい、うるさい。「あそこ、ようけ、自動車、とまっとる」と言うのは、さっきだんじりをおろした駐車場が見えるのだ。
 おかしい。神社に行くときは前を大勢の人が歩いていたので、むきになってついて行った。帰りは前に誰もいない。進むべき道の先達がいないのだ。「上でっか?下でっか?」と訊く。まっすぐ行くよりないだおるに...「休むか?」と訊くと「ついて行きます。おばちゃんについて行きます。よろし頼みます」と言う。おばちゃんかい?
 田んぼが終わり、山道をおりる手前でちょっと休む。さっきの3等の景品の箱を椅子がわりにしたが、へこまない。ばあちゃんは軽いもの、35キロしかない。また歩くと「あそこ、真っ白なっとる」と言う。池の水面が光っているのだ。「これなー」と言いながら、道の真ん中の草を引きかける。止める。「大変なー」と言う。「なにが?」と訊くと「いや、おばちゃんら、何でもよう知っとってやから」と言う。「あんた、それ言うと、皮肉に聞こえるで」と言うと「そうでっか」と言う。「 あー、ここ、大きな木やな。切ってある」と言う。倒木だ。「あそこ、白なっとる」それは木の間の空だ。「あー、たんぼや。たんぼでんなあ」「だまっておれんかい?」「たんぼでんなあ。どないだす?」
 風が変わった。雨かな?日が照ってきた。もう家が見えるが、まだわからないらしい。家に着くまで「どこ、行きまんのん?」と言う!家に入っても「えらい、すんまへん」とまるで「デイサービス」のまま。
 さっさと着替えさせて「昼寝」メモを見せて寝かせた!!おわり!!!