いのしし

 夜、洗濯物を干しに階下のガレージに行くと、犬が伏せてじっと待っている。散歩に行こうというのだ。夜中だよ。11時。しかたなく、小さな懐中電灯で照らしながら行く。後ろに高速道路の音は聞こえるが、行く手は闇だ。田んぼの中の軽トラック1台通れるだけの農道を行く。山の端の木々が黒々しているが、俳句を作れるものでもない。
 ふと、右側に気配を感じ、照らしてみると、剥製のような茶色の胴体が見える。顔は見えない。うつむいているのだろう。いのしし!とっさにきびすを返し、走って逃げてきた。いのししに向かってこられたくないもの。追いかけては来ないだろうが、こわい。鳥肌立つか?身の毛がよだつ、か?やっぱりこわいよね。野生だもの。
 家に帰って言うと、夫が「犬は?」と訊く。「ん?何?」と言うと「いのししが前におるわけやろ?犬が吠えへんのんか?ときいとるんや」「ほえへん」「なんのこっちゃ」もともと猟犬ではない。しつけもしていない。