てんぷら

 ばあちゃんの部屋に行き、テレビをつけてやる。リモコンが見当たらない。布団をめくり、枕をのけると、ちり紙に包んだ四角の柔らかい物が出てきた。少しぬれている。開けてみると、はしっこをかじったてんぷらだ。白い「きくらげ天」だ。しものまの冷蔵庫に入れていたのだ。見に行くと、冷蔵庫にはもう1枚のてんぷらがトレイに残り、ラップフィルムがはずれかけている。これも端をかじってある。
 つまり、家を放浪すると、冷蔵庫にぶちあたり、開けると「きくらげ天」があった。1枚持って自分の部屋に行き、いつものように少し食べて、残りを隠す。隠すと、存在を忘れる。また冷蔵庫に行き、新しい「きくらげ天」を出して、かじってまたなおしたものだ。