従姉妹が来た

 ばあちゃんの姉さんの息子の嫁にあたる従姉妹とその次男君が来た。もう5時半だ。日が長くなったのでついさっきまで明るかった。レースカーテンのままで、布カーテンは開いていたので、道路の街灯が見える。寝ているばあちゃんを起こして「お客さんよ」と、応接間に連れて入った。ばあちゃんは「私、ここに来さしてもろてよろしぃか?」と言う。「どうぞ、お入り」と言うと、入って向かいに腰かけた。「今、ここに来たけど、家は上やねん」と言うから、私達3人は「家とショートステイを間違えてるね」と言いながら相手をした。刺激をしない、怒ると困る。へんなことを言わないで...
 ばあちゃんが「あんた、どこから来たん?」と言う。次男君は「三田」と言う。三田はわかるらしい。私はお茶を入れに台所に行った。戻ってくると、ばあちゃんはご機嫌だ。「ほう〜、おやつ、くれての?」と手を出してくる。「皆、よーいどん、で一斉に食べてね」と言いながら食べる。食べ終わると「お茶、もらおか?」ときた。前は「どうぞ、あんたの分はあるのんか?」と言っていたのに、えらい違いだ。あかんもんね。「怒る前におやつ」作戦で、どんどん食べさせる。
 従姉妹は「おばあちゃんの服のうち、綺麗なのを持って来たから、おばちゃん、デイに行くときに着てね」と言う。姉さんの形見分けなのだ。姉さんも昔人間で物を大事にするから、同じ物を続けて着て、新しいものはそのまま残っているらしい。「ばあちゃん、これをあげる」と言うと「ほう〜、ええなぁ。けっこやなぁ」と喜ぶ。「私、ここで寝るねん」と言いながら、隣の部屋を指差す。それは助かる。
 突然「お母ちゃん!」と言う。えっ!なんでや?なんで突然、つながったん?「あんた、お名前は?」と訊いてみる。「ゆき」あっている。もっともこれはいつも言える。「苗字は?」「○○」これもいつも言える。「お母さんの名前は?」「△△」これもいつも言える。「お父さんは?」「□□」これもいつも長兄の名を言う。「△△の苗字は××やで。家はどこ?」と訊くと「××は上や」と言う。確かに生家は道路よりずっと上の小高い丘の中腹にあり、学校を見下ろしている。生家を言っているのか、ショートステイの施設を言っているのか、見分けられない。でもおもしろくなって繰り返して訊いては楽しんだ。うふふ。いつもは「認知症の人に『私の名前、わかる?』なんて失礼なこと、訊かないで自分から名乗ってくれ」と言っているのに、矛盾するやろ?でも、今日のばあちゃんはすこぶるご機嫌なんであります。私や従姉妹や次男君が相手になり、楽しんだからとて、ばちはあたりませんやろ。
 次男君に「あんた、どこから来たん?」とばあちゃんが訊くと「上!」と指差す。そして「最初は『三田』と言うたんやけど『上』に変えてん」と言う。こいつ、なんでや?「認知症」がわかってきたか?前に「たたかうおばあちゃん」をあげたから読んだだろう。それともブログを読んだか?ニコニコしながら、ばあちゃんを正面から見て、適当にあしらっているのがうまいもんだ。「介護職をやってるのんと違うか?」とあとで夫が言っていた。私は普段、相手が言わないことは聞き出さないので、どんな仕事か聞かなかったのだ。でもうまいもんだった。「おばちゃん、もう帰るわ。元気でな」と言って二人で帰っていった。
 あとはもう夜だから、ご飯とお風呂で、寝てしまった。1日にしては、いろいろな人が来て、おもしろかったね。