おとなしくなるには、ひまがいる

 玄関から入れて「鍵をかけて」と言うと、かけてから戸をドンとたたいて怒っている。私は温室に毛布をかける。しばらくしてまた開けたので、また「閉めて。たたいたらあかんよ」と言うと今度はたたかなかった。そのかわり、私が裏口から入って玄関にまわると、ばあちゃんは戸を閉めても長靴を脱がないで、様子をうかがっている。また開けて出るつもりなのだろう。「入って。部屋に行って」テレビをつける。
 私は隣の応接間で日記を書く。怒っている。4時30分だ。「はたけ いて、なにが悪い!なんにも わるいことせえへん」と言っている。部屋のあいだの板戸をガラッと開けて「なんで いったら あかんねん?なんにもせんと おれるかいな!」と言ってくる。もともと応接間が家のはしっこだったのに、あとからばあちゃんの部屋を作ったのだ。こんなあいだに戸を作る必要はなかったのだ。今となっては要らない。ばあちゃんが開けるたびに、立って行って閉めていると、最初は悪態をついていたが、そのうち数を数えだした。なんのため?わからんが、ときどきやっている。興奮しているときだな。
 4時38分、戸を開けて私が閉めると「ごめんなさい」と言った。だいぶ落ちついてきた。次は独り言で「ご飯、食べよ。トイレ、いこ」と言って廊下に出た。トイレから帰ると応接間を覗き「けっこでんな。ありがと」と言って、戸を閉めるとまた自分の部屋に帰った。あれま?雨戸を閉める音がする。布団に入ったらしい。5時31分、静かになった。
 43分、また「ありがたいな。けっこ、けっこ、何とも言えんな」