おにぎり

 家に帰ると、クロスやさんは二人で休憩中で、コーヒーを飲んでおられた。ばあちゃんもいっしょに、靴脱ぎ石に腰かけて、昼ご飯がわりのおにぎりを食べる。何やかや言うのが、なんとか「会話」に聞こえるらしく「ばあちゃんは、耳は聞こえるの?」と訊かれる。「聞こえないよ。聞こえてたら、ぼけなかったかも」と言うと「聞こえないと、ぼけるの?」と言う。おおいに関係あると思うよ。「相手の言うことを聞かず、ただひたすら自分の世界に入るでしょう」
 仕事を始める。ばあちゃんは、台所を覗いて「おってやで」と言う。「綺麗になったやろ?よかったな」と私が言うと「ほ〜。綺麗やな。おおきに。えらいすんません」と言う。こう言って見ておればよいのにね。いらんこと言うから叱られる。廊下の隅に椅子を置いて座り、しゃべっている。うるさいの、うるさいの。
 「もう4時や。車が来る」と言う。じつは、外に止まっているワゴン車が気になってしかたないのだ。「車は来ないよ。今日はここで泊まるの。おばあちゃんの部屋はあっち」と言うと「ほんな、行ってきます」と言って布団に入った。やれやれ、静かになった〜。助かること。戸の隙間から覗くと、ばあちゃんは布団に入って、ポケットから出した「おにぎり」を食べているではないか!大事そうに紙に包んで、その上にハンカチで包んでいる。いつの間に、ポケットに入れていたの?思い当たらない。ちょっと食べてはまた包んでなおし、寝てしまった。クロス貼りも無事に終わった。めでたし、めでたし。 
 それにしても疲れた〜。ばあちゃん一人だとどうにでもなるが「ひと」がいると、あかんのだ。晩ご飯のあと、ぼ〜っと寝ていて...ふと気付くと...