11時まで!騒ぐ

 ところが、そうはいかないのよね。
 お風呂から上がり、パジャマを着るとき、パッチとパジャマズボンの間に、ちり紙を4〜5枚たたんではさんでいる。こんなもん、トイレに落としたら、そりゃあ、つまるわ。
「ばあちゃん、紙なんか持っとらんでも、トイレにあるよ。持ち歩くな。こんなとこ、入れたらあかんよ。これ何?」と言ってもわからない。「ねまき」「パッチ」「パンツ」と順に教えて、一人で言わせても覚えない。
 4日に、かよこコーチが来たときに言っていた。私が「ばあちゃん、運動神経抜群で、立ったまま、パンツをはくよ」と言うと「無意識にしている動作を意識させると、できなくなるよ」と言う。そう言えば「パンツの後ろ、引っ張ってあげて」と言うと、とたんにできないときがあるなぁ。どれを引っ張るのか、あげるとはどういうことか、わからない...みたいな...日本語が通じない。
 それと同じかな?「パンツ」も「パッチ」も「ねまき」もわからないのに、なんで芳林社の社長さんに「何か、お口にあうもん、持ってきて」が言えるのん?なんで、お客さんやとわかって、おもてなしするのん?
 まん中におやつやおかずか、盛り上げてあったら「それ、食べよぅか?」といつまでも手を出すのに、一人分の自分のおやつを残して持って帰ってくるのん?やることがむちゃくちゃやんか!ぼけてるって思っても、腹がたってきた。もう、ばあちゃんと暮らしたくない!!
「寝なさい」と部屋に追っ払った。しばらくはおとなしく、私もくたびれて居眠りしていた。
 ところが、起きてきた。トイレに来て、台所のドアをガチャガチャやりだした。開かないのだから、あきらめたらいい。しつこく、あきらめない。ステイに行ったら、寝ないでこうやって事務室に行くのだな。ノックしたら開けてもらえるんだな。介護のプロが言うもんね。「90すぎたら、生き仏。寝たいときが夜で、起きたいときが朝」ステイが週に1回でも、くせになるんだね。
 でもな、家でこれをやられると、私は困るんだ。部屋に戻ったが、今度は、手拍子をやりだした。パンパン、パンパンパン...あんまりしつこいので、部屋に見に行ってみると、押し入れを開けるところだった。久しぶりに「ふとんむし」にした。もちろん体罰、虐待。誰かが言う。「死なないように、一箇所開けて、ふとんむしにする」...あはは。たまにはやるのです。ばあちゃんだって横向きに寝て、布団を押さえているだけで、顔はちゃんと出ているから、息はできるって。
 もういいだろうと思ってやめて、となりの応接間でパソコンをする。ばあちゃんは寝ない。縁側の雨戸を開けたらしい。「けっこうでございました〜」「ありがとうございます〜」布団に入り、大きな声で数をよみ...大きく手拍子を打ち...「終わりです!」と言う。それ、なに?音楽療法?覚えてきたの?
 結局、急に静かになったのは11時。11時30分にまた手拍子を始め、また静かになったのはもう12時前だった。自分の部屋からは出ないので、いいとしても、昼夜逆転されてたまるもんか。
 やっぱり、明日からまた畑に行こう。精神の興奮は、肉体の疲労で消すしかない。ばあちゃんの場合だよ。