「マイウェイ 認知症と明るく生きる『私の方法』」 太田正博&太田さんサポーターズ著 小学館 2007年

 太田さんは1949年生まれというから、私と同年代だ。「認知症を語る会」代表とある。この本は「インタビューや講演会での太田正博氏の発言を基に、菅崎弘之、上村真紀両氏とともに文章にしてまとめたもの」だ。
 太田さんは長崎県の中央児童相談所に勤めていたときに「アルツハイマー病」と診断された。菅崎先生の「すがさきクリニック」に通院し、そこのデイケア「それいゆ」に通い、そこの作業療法士が上村さんである。そして、いろいろあったのだろうが...「自分にできることはなんだろう?」3人組で講演をしてまわることになる。そのうち、好きな歌「マイウェイ」も歌うようになる。
 プロローグ 降っても、晴れても、一人で通います
 1.発症 私は病気かもしれない
 2.告知 長いモヤモヤからの脱却
 3.私の使命 認知症のエンターテイナーとして
 4.認知症と私 明るく生きるための工夫
 5.マイウェイ 今、このときにできること
 この本でおもしろいのは、奥さんの言葉である。(4)明るく生きるための工夫  「まだまだできることはある」「忘れてもいいさ」次の「イライラせず、ゆっくり探す」の項である。「太田・妻」として「以前から、家の中のこともよく手伝ってくれていました。最近は、食器を洗っても、洗いものを手に持ったまま、どこに片付けていいかわからず、ウロウロしています。それを見ているとおかしくて、そっちが聞く気がないなら教えてやるまい、と思います(笑)。結局、流しの水切りのところに並べて、場合によってはまた洗ってしまうんですけど。でも、いろいろもの忘れが出始めた時期にくらべると、困った状況にイライラすることは減ったようです。逆に『そこにしまって!』とか、口出しされるほうが、イヤなのだと思います。」
 すごいでしょ。「そっちが聞く気がないなら教えてやるまい」なんて見ている。心の中で(笑)っている。あとにも「家の中でなにか困っている様子でウロウロしていても、私は口を出しません。私のほうも対応に慣れて、見守りながらも内心で“困れ、困れ”(笑)なんて思う余裕もでてきました」
 もっと後ろには太田さんが、自分では意図せすとも、会う人に「カウンセリング」をしていて「太田さんに会うといつもホッとします。太田さんとの時間は、私にとって自分を取り戻せる、自分と向き合える貴重な時間なのです」と言わせている。菅崎先生の言葉「いかにぼけるかは、いかに生きるかと関係があると思います。太田さんは認知症になる以前の生き方がよかったんですね。長年、児童相談所などの福祉の現場で働いてこられて、たくさんの子どもたちとふれあい、その子たちとさまざまな痛みを共有してきました。そういう痛みのわかる人、つまり相手の立場をわかる人だから、自分がつらいことも笑い飛ばせるのです。そして、そういう太田さんの周りには必ず人が寄ってきて、手を差し伸べてくれる。」