帰宅願望

 デイから帰るなり「わたしの家、わかってまっか?」わからんらしい。
 台所へ、1回目。「ねえちゃん、わたしのいえ、わかってまっか?」「あんた、わからんの?」「上や」つまり畑の上のショートステイである。知らんふりして、部屋に誘導する。「あっちやで...ここここ、家、あってよかったな」ばあちゃんは自分のベッドに腰かけても不服である。そのまま置いておく。
 すぐ台所へもどってくる。「ねえちゃん、わたしの家、わかってまっか?」「あんた、わからへんねんやろ?ここに、おらな、しゃあないやん」と言いながらまた部屋に連れて行く。
 また台所へ3回目。「ねえちゃん、わたしの家、わかってまっか?「だまって、ここにおれ!」ばあちゃんは出ていきざま、壁を、ドン!とたたいて、「ええかげんなこと、言うて、あんまりや!」
 また来て4回目。「ねえちゃん、わたしの家...」「あんたの家?どこやねん?」「上〜」まだステイと思っている。まぁな、わからんわな。「あっち、あっち」と部屋を指差すと「なんぼ、なんでも、あんまりや...」と言いながら消える。
 帰る、帰る、帰宅願望。何でも忘れるくせに、1時間も持続する。
 畑に行こうと、ばあちゃんを外に出せば、門の石段に腰かけて、道行く車に手を振っている。振られたほうは不気味だろうね。「止まって! 止まって!」と言うふうに手をひらひらさせている。土曜日の夕方は高速道路がのろのろ運転で国道も車が多く、抜け道作戦か、うちの前も車が連なってくる。住民の方は「ぼけばあちゃん」と知っていてくれても、「前の車についていけば抜け道」なんて思って来る車はびっくりするだろうね?