走っている車を止めた!

 雰囲気がおかしいのに気づいたのは、ばあちゃんを玄関から外に出してからだった。つかまえなきゃ、とあわてて裏口に鍵をかけ、表にまわろうとすると、赤い車が2台、徐行して東に去った。
 ばあちゃんは車に乗り込もうとしている。いや、もうおおかた乗ってしまっていた。白い大きな車だ。デイサービスと間違うような大きさだ。「乗せたらあかんやん」と言うと運転手は「あんたが見張っとかへんからや」て!
 どこの世界に、そこらの車を止めるばあちゃんがおるか!ぼけてるに決まってるやんか! はらがたつー!!「こんな人は他にもいますから、乗せないでください」と言って、ばあちゃんをおろし、杖を2本持たせてどんどん歩かせ、畑に行った。
 ばあちゃんが手を振ったからって、止めるなよ。止めたのなら、ばあちゃんを乗せたりしないでまず、うちの呼び鈴を押せよ。もし、うちのばあちゃんではないとしても「近所でみかけませんか?」と訊けるだろう。それをしないで、いきなり乗せてどうするん? 
 夜、夫に言うと「どこの人や?」と訊く。「知らん。見たことのない人やった」と言うと、夫は「『すみません。ばあちゃん、ぼけてます』と言わんかい」と言う。あ、そうか。冷静なときならそう言って謝るべきだわね。そんなゆとりがあるもんか。とにかく止めなきゃ、と思って出たらもう乗っていたので、思わずどなってしまった。私、けんかっ早いからなぁ。
 夫は「『どちら様ですか?ばあちゃんを乗せて、いったい、どこへ連れて行くおつもりですか?』と訊かんかい」と言う。あ、そうか。どこへ連れて行くつもりだったのだろう?いきなり「警察」ではなく、車を止めたのならばあちゃんを乗せたりしないで、どこのボケばあちゃんか、探せよな。
 謝りもせず、御礼も言わず、いきなり「乗せたらあかんやん」では、運転手さんも怒るだろうね。
 それにしても、私はまだ怒っている!
 車を止めるばあちゃん、いきなり「乗せるな」と言う私、「見張らないあんたが悪い」と言う運転手、皆、悪い?「ゆとりを持てない暮らし」がしんどい。「辛くはない」けど「しんどい」んや。こちらの表現や。