広告塔

 月に1回は診療所に行かねば...外に出たら、うちへ来たお客さんの車が止まっていたので、ばあちゃんに見せると乗りたがる。車など無視してどんどん行く。
 途中で回覧板を届けに行ったので、今日は畑を通らず、車道を上がる。坂が急なので歩きたがらない。私の右手を杖代わりに握って上がった。この誘導法はいいかも知れない。手をつなぐのは甘えすぎだし、ばあちゃんの脇に手を入れてむんずと組むのは大げさだ。「護送」しているように見えてしまう。いい!この「杖がわり」がいい。
 診療所に行ったときは誰もいなかった。看護師さんが来たとたん「あ〜あ〜ありがたい。どないします?」を言い出して止まらない。
 血圧を測る。「ばあちゃん、黙って測る。しゃべると上がるよ」と言うと一瞬止まったが、また言い出す。血圧150だ った。!しゃべらなかったら110なのに...私だったら130でも「やり直し!静かに!」とやられるのにな。
 先生は「どこか悪いところは?」を言われるので「ありません。腰が痛いと言いますが、草を引いているときは言わなくて、歩いて帰るときに言います」それだけだ。きわめて健康だ。
 お礼を言って廊下の待合場所のベンチに戻る。(ソファといえるほど、ふかふかではない)近所の人が4人もきて、唖然!ばあちゃんがひっきりなしにしゃべるから。「家でもこうして、ずっとしゃべるよ」と言うとあきれた様子。そうか、この人たちは家が離れているから見えないし、散歩に来ないから、いや、一人は毎日夕方、来るが、ばあちゃんも畑にいる時間かも知れない。つまり、目の前で見たことないのだ、この人たちは。これが「認知症の歩く広告塔」だぜ。おもしろいやろ。
 会計も済んだし、薬ももらったが、手紙を書くのが急ぐのでそのまま書いて、書けたから「ばあちゃん、帰るよ」と言うと抵抗する。そうか、ばあちゃんはデイのつもりで、皆としゃべっているのに、自分だけ「帰ろう」と言われても納得しないわね。「おやつ食べよう」と言って無理矢理手を引いて外に出た。まるで子どもと同じだ、と思われただろうね。次の施設の外の自動販売機でジュースを買ってベンチに腰かけて飲む。ジュースなら1本飲むのよね。だから「甲虫」
 下におりて、建物の蔭で着替えて草引きをする。里芋の畝を引いてもらった。