危なかった

 家に帰り着いてばあちゃんは台所の入り口、ついで裏玄関をがちゃがちゃする。私は犬をとりあえず、ベランダの柵につなぎ、ばあちゃんを引っ張った。ばあちゃんにのいてもらって裏玄関を開けるつもりだった。ところが、ばあちゃんが後ろ向きにこけた。家に入ってお経もあげてから、あれ?なんで血がつくの?とばあちゃんの頭を見たら、左の後頭部に切り傷があり、もう血は止まっているが、どうも危ない。夫が帰ってきたのでお医者さんに行く。もう6時半なので、診療所のばあちゃんの主治医は帰ってしまわれている。夫の主治医に電話をかけて行くと、診察室で待っていてくださって、廊下に来てくださった。
「これはいかん、縫おう」になる。ばあちゃんは「何するのん!」と怒る。先生は「ばあちゃん、大変や。頭が割れている。縫ってあげよう」夫に「押さえていて」と言われ、夫がばあちゃんの頭を押さえる。私はばあちゃんの両手を押さえる。麻酔をする。これは痛いから、ばあちゃんは怒る。「何、するのん?死んでしまう〜!」私が「かまへんで。死んでよ」と言うと、先生も看護師さんも笑われる。先生に「ばあちゃん、ぼけてるのに、なんで元気だけあるんですか?」と尋ねると「ぼけてるからだよ」と言われる。「要介護、いくら?」と訊かれ、夫が「4です」と言っている。針で縫って、看護師さんがガーゼを貼り、玉葱ネットをかぶせてくださる。「ばあちゃん、帽子、好きやから、ええか?」と言って廊下に出たら、怒りまくるので、いられない。外に出て車に乗り、パンを食べさせてやっとおとなしくなった。
 夫が支払いをすませ、薬局で「化膿止め」をもらい、車に戻った。
 家に帰ると、着替えてすぐに寝た。あとで、珍しくトイレに来たので、見たら、もう玉葱ネットもガーゼも取ってしまっていた。「痛い」とも言わず、出血もしていない。ほっとした。
 夫に「後ろから引っ張ったらあかん。ばあちゃんは後ろから背中を押すと『こけますがな』と言いながら、体重をわしの手に預けてくる。これは抜群の運動神経や。でも、引いたらこける。今後、気をつけよ」ときつく叱られた。
 ほんとに危なかった。あやうく、殺すところだった。あ〜。