入れ歯がない

 また起きてきた。お経をあげて、晩ご飯にする。
 ?なんかおかしい。歯が無い。下の入れ歯が無い。何で?部屋に探しに行く。掛け布団・枕・毛布・電気毛布・敷布団・マット、自分でのけてもらう。 体は動く。歯は無い。窓の障子と硝子戸の隙間に隠してないか?無い。「障子閉めて」と言うと、障子を右に動かすか、左に動かすか、わからない。日本語がわからない。また布団・毛布と順番に元にもどしてもらう。ベッドに乗って毛布のしわを伸ばし、端を布団の下に折り込み、ができる。体は動く。たいしたもんだ。89才だぜ。
 でも歯が無い。「どうするの?食えないよ」「しんぼうします」何を辛抱するの?「食わんと辛抱するの?死ぬよ」目の前のテーブルの向うの端にはご飯とおかずが見えるはずだ。「おやつだけ食べます」と言う。おやつだと思っているらしい。それとも「おやつ」という言葉しか知らないのかも?どうやら「見えている、それだけ食べて、あとは辛抱する」つもりらしい。が、下の歯がなくても食えるものだ。感心した。前に上下両方を失くしたときは食えなかった。