ばあちゃんだってパワーアップ

 デイの連絡帳に書く。
「春ですね!一番危ない季節です。一筋縄ではいきません。『たたかうおばあちゃん63号』で研究し、読み終わったら回覧の旅に出してください。ばあちゃんパワーに負けぬよう!若者よ、頑張ってください」
 迎えに来られた時、ばあちゃんは靴の前の舌を中に履きこんだ。「待って、出して」と言うてもわからんので、脱がせてやりなおしだ。スタッフ君に「どんな靴が履きやすい?柔らかいと、かかとを踏むし、ね」と言うと「マジックテープで止めるのはどうですか?」と言う。「とめ方ではない。舌を巻き込む話。第一、ばあちゃんの辞書にマジックテープが無い」ばあちゃんが育ってきた時代に存在した物でないと、使えない。ばあちゃんの姉がリウマチで手が不自由になり、ブラウスのボタンをはずして、マジックテープをつけてもらっていた。おばちゃんはぼけてなかったので、それでも使えたが、ばあちゃんは意味がわからない。「姉の形見分け」と言って、そのブラウスをもらってきたが、マジックテープができない。前身ごろの左右をまっすぐにあわせたらできるのに、ボタンをはめるように片側を回転させるから、90度まがって止まっている。「文明の利器」は似合わないのだ。
「どんな靴がいいか、研究して論文、書きよ。私、応援するわ」とスタッフ君に言うと「勉強せな、あきませんね」と言う。「そうやで!」と強調しておいた。デイに行ってから連絡帳を見ると、なお、びっくりするだろう。研究しなはれ。研究材料にばあちゃんを貸すよ。