「続けるリハビリ 人のため JR脱線事故で被害、鈴木さんら」朝日新聞

「目の良い人は見えない人の目に。口のある人は話せない人の代わりに」
 107人が志望したJR宝塚線福知山線脱線事故で大けがを負った鈴木順子さん(32)=西宮市=がリハビリを続ける様子が23日、尼崎市で市民団体の催した「4・25メモリアル市民の集い」で紹介された。
同じく事故で負傷した司会業五十嵐有香さん=同=が涙を流しながら順子さんの回復ぶりを紹介した。車いすで会場を訪れた順子さんは参加者に「みなさんできるだけ長生きしてたくさんの人を救ってあげてください」と語りかけた。
 事故現場に近い公民館に、市民ら約100人が集まった。会場前方に設けられたスクリーンに、事故直後の現場付近の風景や、順子さんが病院でリハビリに取り組んでいる様子を撮った写真が次々と映し出された。
 傍らで五十嵐さんが「命輝いて」と題した自作の文章を読んだ。順子さんが一度は医師から死を予告されたこと、事故から5カ月後に意識を取り戻して「お母さん」と呼んだこと。事故後に順子さんが「生きてるだけで人間は芸術や」「人間の大きさって何やと思う?自分と違う人を認めること」と語ったことも紹介した。
 会場で順子さんは映像をじっと見つめ、一緒に訪れた母もも子さん(60)は時折涙をぬぐいながら、朗読に耳を傾けた。
 順子さんは2両目に乗っていて、事故から5時間後に意識不明の状態で助け出された。脳に損傷を受け、会話や記憶が不自由になり、歩くのもままならない。
 五十嵐さんは6両目で首をねんざ。その後、命の大切さを訴えたいと朗読ボランティアグループ「うぃっしゅ」をつくり、中学校や市民集会で事故の体験を語り継いできた。昨年5月に知人を介して順子さん宅を訪れて朗読劇を披露し、交流が始まった。
 今年2月、五十嵐さんがもも子さんに今回の集いへの参加を依頼した。ちゅうちょするもも子さんに、順子さんが「ももちゃんにしか伝えられへんものあるんちゃうの」と促し、親子での参加が決まった。
 五十嵐さんに続いて壇上にあがったもも子さんはこの日、JR宝塚線を利用して会場にやってきたことを明かし、事故現場を通りすぎた瞬間について「順子本人は覚えていなかったが、私がどきどきした」と説明。会場に約100人が集まったことに触れて「これだけの人があの日、亡くなった。生きるということはどういうことかを毎日考えている。その時、その時を大事に生活してほしい」と呼びかけた。
 そして、会場でマイクを向けられた順子さんは、落ち着いた口調で「目の良い人は見えない人の目になってください。口のある人は話せない人の代わりに話してください」と語り、拍手を受けた。