ミニトマトが食えない

 診療所の帰りは畑のつもりで長靴で行く。右手は杖、左手は私の右手首を握らせる。そう、護身術握り。
 消毒がすんで帰り道、施設の自動販売機でフルーツヨーグルトを買う。びん入りがなくて缶入りだ。これは飲みにくい。中身が見えない。ふると残っているのがわかる。「残したらあかん。もったいない」と言って飲ませる。甘いのは好きだが、たくさんあると「全部飲んだら叱られる」と思うだけさ。
 畑は暑くて仕事はできそうにない。丸太に腰かけて待たせておいて、きゅうりを取りに行く。ミニトマトを取ってやったら、食えなくなっていた。口に入れて「あんあんあん」と言いながら首を上下に振っている。歯というか、あごを動かしていないから、噛めるはずがない。取り出して「手で割ってごらん」と言ってもわからない。ズボンのポケットに隠そうとするのだ。ちょっと指で割ってやったらなんとか引きちぎり、半分を口に入れた。もぐもぐするが、かめないし、飲み込めない。皮だけが残ったあたりで「出して。捨てて」で終わった。トマトが食えなくなるなんて!